読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

白昼夢、或いは全部勘違い

コンテンツの消費

ワンルームをぶち抜いたあとに待ち合わせはもうないけどまた会おうね

初めて一人暮らしをしたアパートは、ワンルームだった。
片付けも掃除もできない私のワンルームはこんがらがっていて、寝ることも起きることもご飯を食べることも全部ぐちゃぐちゃだった。

部屋の外の世界とはうまく関わりが持てなくて、インターネットばっかりやっていた。
画面の中しか部屋の外との繋がりのないワンルームは、いつも暗くて孤独で冷たかった。
そのワンルームから這い出すのは、大学と、アルバイトと、あとライブハウスに行くときだけだった。
ワンルーム以外に居場所がないのに、ワンルームにはなにもなかった。
大学3年生になったらゼミに入りちゃんと友達が出来たので私の孤独なワンルームの話は2年でおしまい、浅い闇だ。

アンダーグラウンドから君の指まで遠くはないのさ
iPhoneの明かりを残して
ワンルームファンタジー
何を食べたとか街のにおいとか全部教えて


世界、もしくは世間とかかわりのない自分の部屋の中が暗くて狭いアンダーグラウンドだとしたら、iPhoneで読むブログの世界はワンルームに広がるファンタジーだ。
どんなiPhoneケース使ってるの?どんなネイルでフリック入力してるの?Instagramで教えて欲しい。
寝る前に布団を被ってiPhoneの明るさを1番落として読み返したブログとか、YouTubeに上がっている5年も前のライブ映像とか。
iPhoneの小さな画面が「明かり」になるくらいなんだから、きっと夜だろう。
「そのときの気持ちじゃなくてそのときの気持ちを思い出させる風景を歌詞にしたい」と大森さんは言っていたが、例えば「あなたのブログを読んで泣いた」なんていう具体的な様子と気持ちではなく「iPhoneの明かりを残して」と歌われることで、それはたくさんの人にとって「心当たりのある風景」になるんだろうな、と思う。

最後に見たのは2年くらい前なのでうろ覚えだが、大森さんが監督を務めた短編映画「非少女犯行声明」にもワンルームにまつわる台詞がある。
セーラー服を着た大森さんが秋田県で「私たちは何も諦めてはいない」と宣言する場面、大変にうろ覚えだが、とにかく「ワンルーム」と「地獄」と「美しい」と「朝焼け」という言葉が連続して出てきた。
ワンルームの地獄から見る美しい朝焼け」だっただろうか、定かではない。

一晩中起きていたって誰にも咎められないワンルームの中で、明日になるのも寝るのも怖くて、ダラダラとパソコンの前に座って、知らない人の書いたブログとか、好きな人の書いたブログとか、知らないバンドのYouTubeとか、そんなのばっかり見て、インターネットでしか知らない人とメールしたりとか、日記を書き散らしたりとか、そんなことばっかりやっていた。
空が白んでくるなんて、高校生の頃は小説の中でしか知らなかった。近所のお寺の鐘の音と、新聞配達の原付の音を聞いた。
そういうのが、私の知っている「ワンルームの地獄から見る美しい朝焼け」だ。

大森さんの割と新しい曲、オリオン座

この部屋をぶち抜いてくれたら 待ち合わせはもうしない


「部屋をぶち抜く」といわれて、ワンルームのことを思い出した。
ワンルームはお城で、牢獄で、地獄だった。
アンダーグラウンドワンルームで、iPhoneを使ってインターネット越しに焦がれてみたり、朝焼けを眺めてみたりした、その部屋を遂にぶち抜く歌。

待ち合わせがないとワンルームから出ることが出来なかったけど、自力でこの部屋を出ることが出来たら、もう待ち合わせがなくても大丈夫だよね、という優しさかな、と思った。

ワンルームの地獄をぶち抜いた大森さんがどこに行くのか、ずっと見ていられたらいいなと思うし、ずっと見ているために私は私のワンルームをぶち抜いたりワンルームファンタジーを大切にしたりしていきたい。

広告を非表示にする