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白昼夢、或いは全部勘違い

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「君に届くな」としか言い表しようのない気持ちのこと

言いようのない気持ちを、私より言語感覚に優れた人が言い表してくれることで、救われた気持ちになることがある。

 いっとう好きな歌詞「お気に入り 使い古した絶望」はその最たるもので、手垢まみれで捨てられない記憶に名前をつけてもらったと思っている。

 

大森さんは「非国民的ヒーロー」で

記憶の中の風景 誰かにうまく話せば ほら ああ 報われる

僕はヒーロー

と歌っていたが、「うまく話す」ことで誰かを救い、それにより報われているのは大森さんなのかもしれないし、「うまく話す」ことで私を救うから大森さんはヒーローなのだと思う。

(「ヒロイン」かどうかという話は置いておく。)

「ヒーロー」という言葉、以前に大森さんが言っていた、「ロックスターは当番制、誰かがやらなきゃ」という言葉を思い出す。

 

「君に届くな」のこと。

昨日、LINEに突然送られてきた、聴いたこともない新曲のタイトルだけで、涙が出たし、「わかる、わかるよ」とつぶやいた。

(私の口から言葉が落ちてきただけなのに、インターネットの海に放流したごみみたいに聞こえる言葉になってしまった)

 

大森靖子ちゃん、2016年12月14日発売のシングル「オリオン座」、のカップリング「君に届くな」。

 言うまでもなく、少女漫画「君に届け」が元ネタだろう。

私は椎名軽穂の漫画が好きで、高校生の頃「CRAZY FOR YOU」を回し読みしては「ゆきちゃん…いや赤星くん(爽子の従兄弟)…」と議論していたが、今あの頃の私に伝えたいのは「結婚するなら雄平だぞ」ということだ。

君に届け」もずっと読んでいて、今も新刊を買う数少ない漫画だ。新刊を途中で買うことをやめるような大人になるなんて中学生の私が見たら驚くだろうし殴られるかも知れない。

君に届け」は私にとって完全にファンタジーだ。藤崎竜の「DRAMATIC IRONY」と同じくらいファンタジーだ。

 

この曲の「届くな」は、直接的には大森さんの音楽が「届くな」なのかな、と思う。

新作とかもう出なきゃいいのに

変わらない私が 古くなっていくみたい

たくさんの人に届くとか届かないとか言われる新曲たちのことだろうか。

 

そして、「君に届け」のことを思うと「君に届くな」は「私が君を思う気持ちが君に届かないでほしい」ということか、と想像する。 

君に届け」のそれよりずっと私から地続きの感覚は、この「君に届くな」だ。

君が笑ったり 君が泣くのが

私のことだなんて許せない

心当たりや身に覚えなんて、有り余るほど抱えている。

 自分が好きで好きでたまらないものに、自分の影響がほんの少しでも出ることが耐えられないこと。

全く関わりを持ってはいけないと思うこと。

それでも好きだと伝えてしまうこと。

自分のことなんて全く知って欲しくないのに、視界に入ってはいけないと思っているのに、それでもやめられない自分を浅ましいと思ってしまうこと。

私のことで泣いたり笑ったりしてほしいのかしてほしくないのか、してほしいどころかしてほしくないなんて思うことも許されないくらい可能性のないことなのに、「私は好きな人の人生に関わるなんて大罪を犯してはいないだろうか」と心配してはその心配も愚かだと思うこと、段々と書いていて怖くなってきたが、そういうことに身に覚えがある。

 

このフレーズから思い出した曲は、JUDY AND MARYの「ジーザス!ジーザス!」だ。

 言わなくっちゃ ホントの気持ち

「アタシにもっと傷ついて困ってよ」

やさしくしないで もォ やだ!

好きな人のことで、傷ついたり困ったりする。

好きだから傷ついたり困ったりすることは滑稽で可愛くて、得難いことだ。

私をちっとも好きになってくれなかった人は、きっと私のことで傷ついたり困ったりはしなかっただろうし、私の夫は私のことで傷ついたり困ったりしてくれるのだろう。

傷ついたり困ったりしてほしいだなんて思えなくて、もしかしたら思っているのかも知れないけれど少なくとも言えやしなくて、自分のことで笑ったり泣いたりするのが許せない、自分のことが許せないのか相手のことが許せないのか、多分そのどちらもだと思うが、許せない。

私が傷ついたり困ったりして、私のことで傷ついたり困ったりしてくれるであろう人はごく僅かで、「きっとこの人は私のことで傷ついたり困ったりする可能性があるだろうな」と思うことは信頼だと思うし、それによりいっそう傷つけたり困らせたりしたくないと思う。希少な関係性だ。そういうものを、大人になってから少しずつ得ることができた。ありがたい話だ。

それでもどうしても、「君に届くな」と思ってしまうことが、今もたまにある。 

「君に届くな」という言葉を貰ったときに、そのやり切れなさに名前をつけてもらったような思いがした。

 

「オリオン座」の発売がとても楽しみだ。

 

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